(薫 26歳秋)
・浮舟の母君・常陸の介の北の方は長年の身の上話を中の君に語った。
北の方の言う通り、浮舟にはいい結婚をしてほしい、と中の君は思った。
そして、浮舟を見た。
娘は顔立ちも気立てもよく、憎めないかわいい感じである。
気も利くらしい。
何かものを言う時、亡き大君によく似ている。
薫に見せたい!と中の君が思ったおりに、
丁度、薫の来訪があった。
北の方は胸をはずませた。
先払いの声のひびく中、ゆっくりと貴公子が入ってくる。
(なんてすばらしい!)北の方は見とれる。
御簾の内からであるので、こちらの姿は薫からは見えない。
けれど、なんとなく恥ずかしい。
・・・・・・・
・薫は匂宮の母后の体調がよくないと聞いて参内したところ、
宮たちがお側におられなくて、宮の代わりに今までお側にいたこと、
今朝、宮が参内されたので、中の君を訪ねてきたのであった。
中の君は薫に浮舟のことをほのめかした。
薫は浮舟に関心があったが、急にその気にもなれない、
中の君と薫のやりとりを垣間見た北の方は、
(まあ!ご立派なこと)と思った。
中の君は薫の意向を北の方に伝えた。
「薫さまはいったん思いこまれたら変えたりなさらないお方。
今は内親王さまがご降嫁になったばかりですけど、
薫さまに思いきってご運をお任せになったらどうでしょう?」
「ほんとうにそうでございますねえ」
北の方は深くうなづいた。
・・・・・・・
・夜が明けると常陸の介の邸から迎えの車がやってきた。
北の方はとりあえず帰ることにした。中の君に浮舟のことをくれぐれも頼んで出た。
娘の浮舟も母と別れるのは初めてで心細く不安であったが、
この邸の空気にひたれると思うと若い娘らしく胸が踊った。
北の方がお邸を出るころ、空は明るんできた。
そこへ内裏から匂宮が退出されてきた。
ばったりと北の方の車と宮の車は出会わせてしまった。
「誰の車だ?」
北の方の供人が「常陸殿が退出されます」と言ったので、
宮の供人はこぞって吹きだした。
軽侮の声が上がるのを北の方は悲しい気持ちで聞いた。
北の方はぐっとこらえた。娘のためであった。
浮舟の将来を思えばこそ、
いつしか薫の側に添い立つ浮舟を想像した。
宮は部屋に入るなり、常陸殿とはもしや薫ではないのか?
と嫉妬の妄想を抱かれた。
中の君は聞き苦しくて、
「あの女(ひと)は若かった時分の友達です・・」と答えた。
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・薫の性格がよくわかる場面です。
最初は宇治の山里に住む八の宮の人となりに魅かれて、
ただひたすら仏道修行に専念するはずでしたが、
八の宮邸の姉妹の姫君に会ってからはいつしか宮の教えを乞うというよりも、
姉妹の姉の大君に恋心を抱いてしまって、
宇治行きの目的が大きくそれてしまいました。
大君も父亡きあと、後ろ盾のない身がいかに心細いものであるかを知って、
薫の自分への思いを断ちきって、
妹を薫に添わせて自分は妹の後見人になろうと画策します。
が、気持ちがなえてしまって重い病にかかって亡くなってしまいました。
薫は薫で自分が大君と一緒になるためには妹の中の君を、
小さいころからの親友・匂宮にめあわせました。
この二人ははうまく運んで、宮は二條院へ中の君を引き取りました。
薫の心は大君亡きあと、妹の中の君へと移っていきました。
思い込んだら一直線の薫の気持ちを今はどうかして、
浮舟に向かわせようと中の君は考えるのですが、匂宮がまたまた~~
浮気な男も困りものですが、薫のような男も。
いろんな男たち、女たちが最高のめぐり合わせができるとよいのですが。
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・記事に「ナイス」をありがとうございました。 6月19日